フランク・パーソンズ《特性因子理論》キャリコンが知っておきたいカウンセリング&キャリア理論

フランク・パーソンズは「職業指導」の父とも言われる人です。

「丸い釘は丸い穴に」というスローガンを掲げ、人と仕事のマッチングを重視しました。

「キャリアカウンセリング」という言葉は今では当たり前のように使われるようになりましたが、「カウンセリング」という言葉を初めて使ったとされています。

特性因子理論に基づくカウンセリングには、今日では様々な問題があるとして批判もされていますが、人が自己実現するためにはしっかりした職業指導が必要であるとして、システマティックなカウンセリング手法を開発したパーソンズ先生の功績は今なお高く評価されています。

では、そんなパーソンズ先生の特性因子理論に、仕事選びのヒントをいただきましょう。

目次

パーソンズってこんな人

フランク・パーソンズは、キャリアに関する研究を1900年代初頭に始めたアメリカ人です。

当時アメリカでは、産業革命によって社会が急激に変化し、様々な社会不安が引き起こされていました。

急激な経済成長、
都市部への人口集中、
劣悪な労働環境、
離職率の高まり、
中途退職者の急増に起因する失業問題・・

そんな中でパーソンズは、青少年が非人間的な単純労働に従事したり、職を転々として不安定な生活を送ったりしているのを目の当たりにし、適切な職に就けるように指導する必要があると痛感。

自ら調査を行い、青少年が適職に就けないのは技能が不足しているからではなく、場当たり的な職の探し方に原因があると気づき、人と職業の適合を支援するための研究をするようになりました。

この研究をまとめたものが、『職業の選択(Choosing a vocation)』(1909 )です。

歴史的著作『職業の選択(Choosing a vocation)』(1909 )

この本は、以下の3つのパートで構成されています。

  1. 人の情報を集める方法
  2. 当時の職業情報や仕事で必要となる基本的なスキル、能力、特定産業または職業の需要などの統計情報
  3. パーソンズが開設した職業指導局の設立の経緯の紹介

キャリア理論について学ぶ際、まず最初に学ぶと言っても過言ではない「特性因子理論」は、この本で提唱されました。

人と職業の適合に関する理論です。

またパーソンズはこの本の中で、「職業指導カウンセラー(Vocational Counselor)」という言葉を初めて使いました。

パーソンズの有名な言葉に「丸いクギは丸い穴に」という名言があります。

人には個人差、職業には職業差があり、両者をうまく適合させることが良い職業選択や職業適応につながることを説明するものです。

人をクギに例えていることからわかるように、パーソンズの研究では、人の成長や発達についてはあまり焦点があてられていません。しかし、個人差の研究や一般職業適性検査(GATB:General Aptitude Test Battery)のようなテストの開発においては、現在に至るまで有効な理論として活用されています。

当時の社会でははまだ、「様々な角度から職業を選択する」という意識は浸透していませんでした。そのため、多面的に検討して職業を選択するということを、体系化・言語化し、思考のスキームとして扱えるように経験則を理論化していくことには、大きな意味がありました。

時代背景

では、パーソンズが職業指導を提唱したのは、どのような時代だったのでしょうか。

先述のように、当時アメリカでは社会が急激に変化し、様々な社会不安が引き起こされていました。その要因の1つが、人口増加です。

アメリカの米国の人口は増加し続けており、1790 年の最初の国勢調査で約400万人だったのが、1900年に約7600万人に、2000 年には約2億8100万人に、2020年には3億3100万人を超えました。中国、インドに次ぐ人口大国です。

アメリカへの移民流入が過去最も活発だったのは、19 世紀末から20世紀初頭までの間で、中でもピークは1900年から1910年にかけての10年間と言われています。パーソンズが特性因子理論を提唱した時代と、まさに一致している時期にあたります。

パーソンズの特性因子理論はこうした時代背景から、「急激な経済成長により都市部に集中した労働者を、より効率的に適職に導く」という社会的課題の解決を企図して開発されたと考えられています。

「人と職業の適合」の基本原理

パーソンズは、個人の能力・特性と職業に求められるスキルが一致するほど、個人の仕事における満足度は高くなるという、「人と職業の適合」の基本原理としています。

更に、賢い職業選択を実現するポイントとしては以下3つの要素を挙げ、7段階で支援することを提唱しています。

3つの要素

  1. 自分自身(適性、能力、興味、目標、強み、弱み、そして、それらの原因)についてはっきりと理解すること。
  2. 仕事に付随する各種の情報(仕事の要件、成功の条件、有利な点、不利な点、報酬、就職の機会、将来性)を得ること。
  3. これら2つのグループの関係について「正しい推論(true reasoning)」をすること。

3つの要素を支援する7段階

  1. 個人資料の記述
    個人の就業に関する主要な要因を記述する。
    その際、職業教育と関係がある課題を忘れずに記述する。
  2. 自己分析
    自己分析はカウンセラーの指導のもと実施する。職業の選択に影響を与えるかもしれない傾向と興味は、すべて記録したほうがよい。
  3. 選択と意思決定
    選択と意思決定は最初の 2 つの段階においても起きる可能性がある。
    またカウンセラーは、職業の選択はクライエントによりなされるべきであるということを心に留めなければならない。
  4. カウンセラーによる分析
    カウンセラーは、クライエントの意思決定の結果が、クライエントが探求しているものと整合性がとれているかを分析する。
  5. 職業についての概観と展望
    カウンセラーの支援のもとクライエントの職業に関する概観と展望を支援する。
    カウンセラーは職業分類や職業、職業訓練の実施場所といった産業の知識に精通しているはずである。
  6. 推論とアドバイス
    この段階では、論理的で明確な推論と結び付けられた態度はとても重要である。
  7. 選択した職業への適合
    カウンセラーは、クライエントが選んだ仕事への適合と、意思決定に関する振り返りを支援する。

パーソンズの研究に対する評価

パーソンズの研究に対しては、「適材適所の考えに固執している」「人間と職業との関係性の捉え方が過度に一面的、固定的、静態的である」等といった指摘をする向きもあります。しかしそれらの指摘は、キャリアカウンセリングにおける個人特性の測定の重要性を否定しているものではありません。

パーソンズの研究成果は現代に引き継がれ、前述の3つの要素は、GATBを含む職業適性検査などの心理検査手法の開発、職業や職務の科学的分析、カウンセリング理論とスキルの発展に現在も寄与し続けています。

とはいえ、特性因子論は人間の成長や発達についてはあまり考慮がなされていない面があるのは事実。キャリアカウンセリングの場面において職業適性検査を利用する場合には、適材適所の考えに固執せず、これからのキャリア形成に必要となる職業能力を概観し展望することを支援するために用いる、という意識を持つことが肝要です。

相談場面にて

パーソンズの理論は、キャリア理論の中で最も古いため、職業適性検査やパーソナリティ検査が充実しています。

例えば前述の GATB は、制限時間内にたくさんの小さな円の中に点を打ったり、同じ図形を探したりといったテストを行うことで、9つの適性能(知的能力、言語能力、数理能力、書記的知覚、空間判断力、形態知覚、運動共応、指先の器用さ、手腕の器用さ)を測定し、これを13領域の40適性職業群に編成・設定された基準と照合する検査となっています。

ただし現在では、主要な理論的背景が特性・因子理論以外にあるアセスメントツールも多数開発されています。

また、「ツールを用いた検査=アセスメントや診断」ではなく、アセスメントや診断はツールや検査を道具とし、その結果を1つの情報として、さらに観察や相談も行いながら、総合的に行う必要があります。

検査やツールの活用方法や限界を十分に理解していない経験の浅いキャリアコンサルタントは、ツールや検査を用いて容易に診断ができると考えることがないようにする必要があります。

(つづく)

参考

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